私はドームサウナに入ろうとしている客の準備をしはじめた店長を、目で追いながら心の中で思い切り舌打ちしていた。―私の体はもとに戻るって言うの。もう何もかもが嫌になってくる。今にも泣きだしそうになり、鼻の奥が痛くなって目頭が熱くなった。「もとに戻る」という言葉は、何よりも強い切り札だった。「ねえ、ここって怪しくなあい?さっきだってさ、店長の話おかしかったよね?脂肪を分解するとか言っているけど、水でもとに戻るって言っているんだから、体質改善なんて意味がないじゃんね」待合室でHさんは、施術室の戸をにらみつけてそう言った。そう言いたくなるのは私も同じだった。「誰だって、規則正しい生活とか食事をすれば痩せるわけじゃん。だからここの施術で本当に痩せているのか分からないよね」彼女のエステサロンに対する怒りは、頂点に達しているようだった。「あたしはねえ、他のエステとは違って、1回痩せたらもとに戻らないって言われて、ここに入会したんだよ!でも全然違うじゃん。体重が少しでも増えればさ、水分を取ったんじゃないかって言い出すしい、効果が出ないとすぐ客のせいにするしい。それにこのコースを取れば、確実に痩せるって勧誘してくるじゃない。それでことわるとスタッフ全員で嫌みの連発でしょ?そんなことされたら誰だってことわれなくなるしっ!もう何なの」カルテを広げてボールペンをいじりながら、目くじらを立てている彼女は今にも泣きだしそうだった。おそらく誰もが同じ目に遭っているに違いなかった。皆通いはじめてからこういう現実を目の当たりにしている。しかしそれを知るのは高額なローンを組んだあとなのだ。そして何より痩せ願望を捨てきれないというジレンマの中で、分かっているのにはまっていく。そこに「もとに戻る」という切り札を出されるのだから、これは紛れもなく女性心理をうまく利用した巧妙な手口だった。「これじゃあ、怪しいって言われたってさあ、しょうがないよね?」表面が溶けて液体になりはじめたドリンクに視線を落として、彼女は深々と溜息をついた。私もあごに力を入れて唇を歪めた。そのあとも私が話したお客さんは、皆同じことを言っていた。彼女たちは、「どうして女は痩せたいんだろう」「どうして痩せていないといけない世の中なんだろう」と嘆き、このジレンマから抜け出せない苦しみを抱えていた。そして被害を人には言えないという壁にぶつかっている。
[参考サイト]
PMKエステサロン銀座店
町田のエステティックサロンPMK
エステサロンPMK仙台店