「別にポストに就けなくたって、給料は上がるからいいじゃないか」という意見もあるだろう。ただそれは、定期昇給あっての話だ。ほとんどの企業が定期昇給を見送るようになって久しい。すでに完全廃止を打ち出している企業も少なくない。少なくとも四〇代以上では、スーパーマン並みの活躍を、それも一定期間続けなければ、まとまった昇給は得られないというのが現実だ。課長ポストを辛くも手に入れたA君はまあいいとして、鈴木・中村の両名の年収は、おそらく七〇〇万円程度でピークを迎えることになる。
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単純計算で生涯賃金が三割以上減ってしまったわけだ。ちなみに、下がるのは給料だけではない。退職金は基本的に勤続年数と基本給で決まるから、基本給が低いまま定年を迎えてしまうとこちらも三割程度下がることになる。もちろん、厚生年金も同様だ。もし、両名が家のローン残額を「退職金で一括返済」しようなどと考えていたとすれば、老後の人生設計までも大きく狂うことになる。端的に言ってしまうと、企業内にあった年功序列というレールは、おおかたの企業においてはすでになかば崩壊したと言っていい。もちろん、順調にレールを進んで、若い頃の働きに見合った報酬を、従来と遜色なく受け取れる人間もいるだろう。だが半数以上の人間は“働き損”で終わることになるはずだ。彼が受け取るのはポストではなく、やり場のない徒労感でしかない。これが、若者が会社を途中下車する最大の理由だ。最初はそんなことには無頓着でも、職場を見渡していくうちに嫌でも現実に気づかざるをえない。社内の人事制度にひととおり目を通し、自分の給与明細と上司のそれとを見比べれば、誰だって「こりやあ将来、空手形をつかまされそうだ」と気づくのだ。